仏心のある生活(6) 

さよならだけが人生だ(愛別離苦)

 

 于武陵の「勧酒」という漢詩の中に「人生足別離」という一説があります。
これを作家の井伏鱒二さんが「さよならだけが人生だ」と翻訳してからこの言葉が大変有名になりました。

 ですが私はこの言葉の決めつけた響きに抵抗がありました。
人生それだけではないだろう、ただ単にそう思ってなじめなかったのです。

 ところが年のせいでしょうか。
最近なぜかこの言葉の重みをズシリと感じるようになったのです。
朧気ながら真意が読めて来たのです。

 かりに、もし私が今、余命幾ばくも無いことを告知されたら、
一番の心残りは何かを自分に問いかけてみました。 

 その答えは、「愛する者たちとの別れ」であると出ました。
家族や、心をかよわせた親しい人たちと、もはや未来永劫に合うことも、その笑顔に接することもない、
たとえこの先、この世が何億年続こうが今生のめぐり合いは二度と訪れない、
自分にその思いが本当に迫ったとき、人は一番こたえるのではないでしょうか。


 ほとけは、人生には避けて通れぬ八つの苦しみ(八苦)があると説きました。
そのうちの一つに「愛別離苦」があります。愛する者との別れの苦しみです。
人生には苦しみ悲しみの種は無尽蔵にありますが、
その悲しみの極致は何といっても人との別れであるという気がします。

 井伏さんが「さよならだけが人生だ」と大胆に翻訳した背景には、
やはりそんな思いが秘められていたからではないでしょうか。

 

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